PJA NEWS)2018年11月1日
タイ高速鉄道計画で唯一実現性の高いEECエリアを結ぶバンコク~ラヨーン路線、政治と現実に大きな隔たり

タイで大規模なインフラ投資の目玉となっているタイの高速鉄道(新幹線)計画。
現在、この高速鉄道計画の多くの路線で採算性が疑問視され実現が危ぶまれている。

(タイの高速鉄道計画とは)
まず、そもそもタイの高速鉄道計画とはどんな内容なのかを見ておきたい。

タイの高速鉄道計画は、もともとは9年前の2009年にタイの当時の民主党のアピシット政権が高速鉄道建設案を採択したのが始まりだ。
当初は外国との連結を重視した路線案となっており、バンコクからラオスとの国境のあるノンカイや、マレーシアとの接続に重点をおいて5路線を構想。
中国企業と共同して開発する計画だった。

2011年、タイの当時のインラック政権はタイの内需の開発を重視して高速鉄道建設計画を変更、バンコクとナコーンラチャシマ間を結ぶ路線などで計画が進められた。インラック政権は2014年の着工を目指していたが、2014年のタイの軍事クーデターにより政権は転覆。高速鉄道計画は頓挫した。

2014年、タイのプラユット政権が所信表明の際に、内需拡大の為の高速鉄道の開発にも注力すると表明。
他にも空港や港、高速道路、都市開発などを合わせた大型公共事業の計画を発表した。

同年12月19日、タイ政府と中国政府はバンコクを起点にラオス経由で中国と結ぶ計画の高速鉄道路線、バンコク~ノンカイ間(ノンカイはラオスとの国境の町)、総延長867キロの高速鉄道計画の覚書に調印した。

そして翌日の12月20日からタイ政府は日本とも交渉を開始。翌年の2015年2月にはプラユット暫定首相が来日して安倍首相と会談、この頃から日本とタイの高速鉄道計画が持ち上がった。

2015年5月にはタイ政府と日本政府はバンコクとタイ北部のチェンマイを結ぶ総延長約700キロの路線と、ミャンマーとの国境のあるカンチャナブリからバンコクを経由しカンボジアとの国境のサケオ県を結びチョンブリ県への支線もある、タイの東西を結ぶ総延長約500キロの路線の高速鉄道開発について、日本が優先開発をするという覚書に調印した。

こうしてタイでは、中国と日本とのそれぞれについて高速鉄道の建設計画が進んでいった。

タイでは経済発展に寄与するという点で、高速鉄道への期待は大きい。
加えて日本、中国としても、タイでの影響力を今後も高めるために高速鉄道への関与の意味は大きく、日中間の戦略的な競争という側面もあった。

しかしながら実際の具体的な交渉に入ると、中国と進めるバンコク~ノンカイ路線も、日本と進めるバンコク~チェンマイ路線も、いずれも平均所得も人口も少ないローカルエリアへの路線であり採算性の見通しは厳しかった。
このため予想される赤字の負担をどうするかという問題から、具体化は難航した。

中国との交渉では、路線はタイの地方都市ノンカイへの路線であり巨額の赤字が見込まれた。
このためタイ政府は、中国政府に6割の負担を求める共同出資で特別目的会社(SPV)をタイに設立し、共同開発をする提案をして中国側の負担を求めたが(2016年)、中国側は共同出資を断った。
その後はタイ政府は低利での融資なども含めて中国政府に提案したが、中国側は低利融資も断り、交渉は長らく紆余曲折を経て難航した。

2017年7月、タイのプラユット政権はやむなく上記の一部区間であるバンコク~ナコンラチャシマの総延長約253キロ、全6駅、総投資額見込み1,794憶バーツを、タイ政府の投資で建設する計画を閣議で承認。中国技術による高速鉄道を、タイの投資で建設する計画となった。

タイと中国の交渉は同年、わずか3.5キロの一部を先に建設することでようやく合意に至り、2017年末に起工式も開かれたものの、その後の進捗は非常に遅く今後の見通しは不透明だ。

タイ政府も、国内の大規模インフラ投資として高速鉄道計画を重視しており、2017年6月には中国との高速鉄道開発のために、タイ暫定憲法44条でタイ首相に与えられた強権を発動。
着工を遅らせた要因の一つであった農地の開発規制の制限をなくしたり、中国企業がタイで開発しやすいよう就労規制をなくすなどして開発を進めようとしたが、このような強権の発動はタイの世論で大きな反発を招き、タイ政府に国内からの批判が殺到する事態となった。


日本とのバンコク~チェンマイを結ぶ総延長約700キロの路線も同様に、ローカルエリアへの路線であり事業としては巨額の赤字が見込まれている事から、日本政府もタイ政府が求める共同出資には難色を示し交渉は難航した。

2018年2月7日、日本とタイの協議の場で、日本政府はタイ政府が求める合弁事業としての共同出資を断り、低利融資での貸付とする案を提案した。
これがタイ現地では、日本が共同出資を断ったという点が報道されて反響を呼び、日本もバンコク~チェンマイ間の高速鉄道(新幹線)計画から手を引いていくのではないかという論調がタイ現地で見られた。

このバンコク~チェンマイ間の高速鉄道建設については、その後もタイ政府は、見込まれる赤字の大きさを考えると日本が一緒に出資する形でないと実現は難しいとして、再三にわたり日本側に共同出資を提案していた。

先月の2018年10月19日にはタイのアーコム運輸大臣が訪日し、日本の国土交通省の石井大臣に表敬訪問していたが、タイの現地報道によると、この来日の折もタイ政府は日本政府に共同出資を求めたものの、日本側は難色を示していたとされる。これにより、日本と計画しているバンコク~チェンマイ間の路線の先行きも不透明となっている。

 

2018年10月19日 日本の国土交通省で石井大臣に表敬訪問をするタイのアーコム運輸大臣
(写真:国土交通省)

この日本とタイとのバンコク~チェンマイ間の高速鉄道については、以下のような京都大学東南アジア研究所准教授(*1)の方の記事なども日本で話題となった。

2018年3月9日 NewsWeekJapan(日本語版)
日本がタイ版新幹線から手を引き始めた理由
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/03/post-9703.php

上記記事は個人の考えを記載したものであり、その内容は現政権に批判的なものであるため、それについての論評は本記事ではさておく。
しかしながら上記記事から、日本が高速鉄道計画について難色を示している実情がタイで反響を呼んでいる事もわかり、それが日本でも話題となった。

このように難航する路線が多く、実現可能性が高い路線が現状はまだ無いタイの高速鉄道計画だが、そんな折に2017年タイのEEC(東部経済回廊)開発計画が本格的に始動し、高速鉄道計画もEECエリアを結ぶ路線の計画が脚光を浴びた。

この路線はバンコクからラヨーンまでを結び、沿線にはドンムアン空港~スワンナプーム空港~ラヨーン空港の3つの空港、さらにパタヤやシラチャなどの都市やレムチャバンなどの大規模な港を含む、総延長約220キロの路線だ。
この路線の事業費は2,150憶バーツと見込まれており(2017年9月時点)、時速250キロの高速鉄道で結ぶ計画となっている。

タイの高速鉄道計画において、現状もっとも実現可能性が高く有望だと思われる路線だ。

この路線の開発の入札は再来週の11月12日(月)に締め切られる予定で、年明けに落札者が決定する見込みだ。
現在は入札が続いているが、
入札にはタイや日本、中国の企業の他、韓国やフランスの企業も関心を持っているという。

この路線の計画について、日本の朝日新聞が現状を伝える記事を掲載している。

朝日新聞DIGITAL) 2018年10月20日
日中協力、発車ベルは幻? タイ高速鉄道、政治と現実にズレ
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13731615.html

報道概要は以下のような内容だ。

日本の安倍政権は10月下旬の訪中に合わせ、日中間での企業間の協力事業として打ち出す事業が欲しい。
そこで、このタイのEECの高速鉄道計画を日中の企業で協力する案件としたいという動きがある。
政権としては、このような協力事業によって日本のビジネス機会の拡大と同時に、中国との関係の安定化を狙いたい。

中国の習近平政権側も、米国との貿易戦争が過熱する中で日本との関係は良くしておきたい。
中国からすれば本件は”一帯一路”のコンセプトにも沿う事から外交的にもプラスと判断して協力的だ。

タイのプラユット政権側も、巨額の投資が求められる高速鉄道計画を実現する為に日中の協力は有利であり、これを歓迎している。

これにより、日・中・タイは今年の5月には中国の呼びかけでバンコクで協力セミナーまで開いて、協力を推進している。

このことから日中の協力開発でEECの高速鉄道計画が進行するのではないかと言われていた。
しかし実際のビジネスの現場の実情は政治とは乖離している。

日本企業のビジネスパーソンたちは、積年のライバル関係にあり、しかも国有企業主体の中国企業とは利益構造も異なる事から、このような案件で手を挙げる日本企業があるとは思えないと口を揃える。

また、この路線も完成後の事業性の行方は不透明だが、タイ政府は一切利益を保証しない案件であり、日本企業にはリスクが多きすぎるという声が出ている。

上記が概要だ。

タイの高速鉄道計画で、現状もっとも期待されるEECエリアを通るバンコク~ラヨーンの路線。
タイ、日本、中国のそれぞれの政府の思惑、そして日本を含む各国の入札企業の思惑に大きなズレがある中で、再来週の11月12日(月)に入札の締め切りが行われる予定だ。

政府の思惑のうち、中国は国営企業が中心で、政府の思惑で動かしやすい。しかし日本は異なり、政府と企業との思惑のズレは大きい。
特にアメリカの官僚の方々の考えや動くと比べると顕著に感じるが、日本の官僚組織の方々は官僚組織しか経験していない事が一般的で、民間企業の経験が少なく、個人の理解や考えにおいても乖離が大きい事を痛感する。これは良くも悪くも、日本の官僚組織の特徴を形成している。

この乖離が大きい現状では、”日中協力のタイ高速鉄道”の発車ベルは一生待っても鳴らないだろう。

タイ政府としても、現実的には事業性が全く見込めず計画が進まない路線は後回しにして、この路線へ注力せざるを得ないだろう中にある。
その現状の中で、この路線の開発をめぐる動きがどうなるかに注目が集まっている。


<補記>
(*1)京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科の方から先月の2018年10月、パタヤ日本人会(PJA)の事務局にまでお越しいただいて取材をいただきました。
上記の記事とは全く異なる方です。
大変に熱心で優秀な若い方で、今後が楽しみになる取材でした。
今後研究の一環として、資料にもパタヤ日本人会(PJA)のことも取り上げていただける予定とのことです。
この場を借りて、取材いただいた御礼を記載します。

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