PJA NEWS)2018年11月2日
タイの現政権を批判するラップ”Prathet Ku Mee”は依然として大きな反響を起こしています。
一昨日の以下の記事の通り、一昨日時点ではタイ警察は取り締まりに動かない方針となった事が現地メディアでは伝えられています。
過去記事 2018年10月31日 PJA NEWS)タイで政権批判のラップが大きな話題に
http://pattayaja.com/2018/10/31/pja-news%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%81%a7%e6%94%bf%e6%a8%a9%e6%89%b9%e5%88%a4%e3%81%ae%e3%83%a9%e3%83%83%e3%83%97%e3%81%8c%e5%a4%a7%e3%81%8d%e3%81%aa%e8%a9%b1%e9%a1%8c%e3%81%ab%e5%8b%95%e7%94%bb%e4%bb%98/
その後のタイの現地報道によると昨日のNationの以下記事のように、タイ国防省が「なぜ、1976年の虐殺(を連想させる)シーンを動画に使っているのか?」と問いただしており、調べる姿勢である事を報じています。
Nation)Ministry questions use of 1976 massacre in rap video (2018年11月1日)
Nation)当局が、ラップ動画に1976年の虐殺を使っている理由を問いただしている
http://www.nationmultimedia.com/detail/politics/30357625
1976年の虐殺というのは、いわゆる”血の水曜日事件”のことを意味しています。
この事件は1976年10月6日、バンコクのタンマサート大学で左派系の学生や市民運動家が集会を開き、当時のセーニー政権への要求をしていた所、バンコク警察や国境警備警察、右派系の人間などが集会参加者たちを攻撃した事件です。当時の政府発表で、集会参加者の死者46人、負傷者167人、参加者の身柄拘束者は100人という大惨事となりました。
当日の午後6時に当時の国防省は戒厳令と軍事クーデターを宣言し、当時のセーニー政権は失脚。
事件後にターニー政権に代わり、5人以上での政治集会の禁止、メディアへの言論統制などが行われました。
上記のNationの報道では、このような残虐な暴行を連想させる動画を広くタイ国内に投稿したことが問題ではないかとする国防省のスタンスが論点として描かれています。
そして昨日、タイのプラユット首相も同席して、この政権批判のラップ動画に対抗して作ったと思われる官製ラップ”Thailand 4.0″の動画がお披露目されました。
現地報道で、以下の本日のバンコクポストが伝えています。
Bangkok Post) ‘Lame’ gorvernment rap responds to “Prathet Ku Mee” (2018年11月2日)
バンコクポスト)説得力の無い官製ラップで、”Prathet Ku Mee”に対抗
https://www.bangkokpost.com/news/politics/1568634/lame-government-rap-responds-to-prathet-ku-mee
報道内容の概要は以下の通りです。
昨日の木曜、バンコクの首相府に約500人の招待客を招いて”Thailand 4.0″という政府公式ラップのお披露目が実施された。
これは、木曜の時点で2500万ビューを超えている反政権ラップ”Prathet Ku Mee”の動画に、明らかに対抗するものだった。
(補記)昨日の様子は、以下の公開されている動画をご覧ください。(タイ語の動画となります)
この”Thailand 4.0″の動画では、音楽に合わせてラップで
”タイには才能ある人間がたくさんいる。”
”力を合わせれば、もっと強くなる!強くなる!”
といった内容などが歌われた。
プラユット首相は、適切な歌詞の音楽が聴けて満足した事を語った。
お披露目されたラップ動画は参加者500人から、とても丁寧だが、わずかなパラパラとした拍手を浴びた。
動画が公開されると、10時間で約900回視聴された。
You Tubeの動画についた”Like(好き)”の評価は3件、”Dislike(嫌い)”の評価は22件だった。
上記が、報道されている内容の概要です。
現地ニュースでも、動画の反応として拍手が丁寧ながらも”scattered”(わずかな、パラパラとした様子)であったことや、動画のビュー数や評価数が少なく評価も悪いことなどを報じています。
外人としては、このような報道をタイの大手メディアが堂々と報道する自由があるという面もわかるので、その意味では安心しますね。
そのような報道を見ていて興味深いのは、現状のタイ首相府の対応の内容です。
いくらなんでも、反政権の過激な主張で若者グループによりヒットしているラップに対して、相手のフィールドのラップで対抗して官僚が官製ラップを作ったって、そりゃぁ世間から受けるわけなんかありません。
時の政権の政策というのは通常、それが民主主義国家であっても、とても良い効果を発揮している内容の政策であっても、メディアや国民には”当たり前”のように扱われ、そう簡単には支持なんてされないものです。
逆に批判する内容は国民の関心を引く為にメディアも報じやすく、批判ばかりが多数されるのが”当たり前”です。
それが民主主義の根幹である”言論の自由”がある中での政治というものです。
日本でも、まともな政治家の場合は皆、政治家という仕事は”批判されるのが仕事”と考えるのが常識でした。
政治家が批判もされなくなれば、それは政治家として何も仕事をしていないからか、言論の自由が無くなったかからか、そのどちらかです。
それを前提として考えると、今回のプラユット政権の官製ラップを作って発表するという対応は、政権批判に対して強権で対応していないのは良いものの、ラップという若者の文化で批判が盛り上がっている時に、既述の通り相手のフィールドであるラップで、しかも官製ラップなんか出したって受けるわけもなく、お世辞にも上手い対応とは言えないでしょう。
逆に本日の現地ニュースのように”いかに現政権のラップに反響がないか、むなしいか”という事が報道されてしまい、大反響のラップと比べての対比もあって、支持が得られにくくなる危険性が高まります。
外人の視点で見ていて思うのは、プラユット政権は軍事政権ながらも、非常に各方面に気を使いながら良い政策も多数行っているのに、なんとももったいない話です。
普通に考えれば、政治家と官僚が”Thailand 4.0”として成果をアピールするには、例えばThailand 4.0の投資や政府対応が海外からも非常に高く評価されてニュースにもなり、それを海外と連動したニュースとしてタイ国内に伝えるとか、方法はいくらでもあります。
ここでタイ国内の有識者とかになると、いかにもな御用学者が言っているだけという報道になってしまうので、タイの人が説得力を感じて納得するように海外の有識者が語る海外ニュースなどで、本当に評価されるようにする方が効果を増すでしょう。
こういった対応の内容で、民主化に向けての対応に苦慮する現政権の様子が窺える、今日のタイ現地のニュースです。
タイの選挙の予定は来年の2月。
選挙に向けて、タイ国内の今後の動きには注目が集まっています。
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