タイメディア「日中がスマートシティー構想に参加」日本側認識とズレ

2019年5月7日　PJA NEWS)

タイメディア「日中がEECスマートシティー構想に参加」日本側認識とズレ

タイ大手英字メディアのBangkok Postが2019年5月7日の今朝、日本と中国がタイのスマートシティー計画に参加すると報じました。

Bangkok Post)China, Japan to join EEC smart city plan　(2019年5月7日)
Bangkok Post)中国と日本、EECスマートシティー構想に参加
https://www.bangkokpost.com/business/news/1673272/china-japan-to-join-eec-smart-city-plan

(写真はイメージ写真
東京都庁前の写真です)

Bangkok Postの報道の概要としては、次の通りです。

EEC(東部経済回廊)のスマートシティー構想は、タイ高速鉄道でバンコクのドンムアン空港、スワンナプーム空港、ラヨーンのウタパオ空港の3空港を結ぶ、いわゆる「EEC路線」に続くEEC開発の計画です。

EEC事務局のカニット事務局長は、日本のJICA(国際協力機構)が現在、EECスマートシティー構想についてフィージビリティスタディを実施している事をコメントしました。このフィージビリティスタディには、EECスマートシティ構想の枠組み、政策、民間企業を惹きつけるインセンティブの設定などを含んでおり、チャチューンサオ県が中心となる事が期待されています。

カニット事務局長は、民間企業はスマートシティー構想に基づく計画を実施する事が認められており、チョンブリ県ではSET上場企業の大手アマタ社が推進の準備が出来ている事も語りました。アマタ社は42平方キロの工業団地をスマートシティーとして開発し、新技術、再生可能エネルギー、エネルギー効率の高いインフラストラクチャー、持続可能な環境保護の実現に取り組む予定です。アマタ社では、日本の横浜市と昨年、フィージビリティスタディを実施しています。

また、カニット事務局長は、中国の中国開発銀行もスマートシティー構想への投資をし、中国企業からの投資を呼び込むことを約束した事を語りました。

しかしながら、カニット事務局長は、EECスマートシティー構想への具体的な入札のスケジュールは、今だ設定されていない事を次のように語りました。「タイ政府としては、まずは5つのインフラ整備プロジェクトに注力することを優先しているため、EECスマートシティー構想への入札等はまだ設定されていません。」

優先されている5つのプロジェクトとは、タイ高速鉄道のEEC路線(2250憶バーツ)、ウタパオ空港都市計画(2900憶バーツ)、MRO(メンテナンス、修理、オーバーホール)センター開発の第二段階(106億バーツ)、レムチャバン港開発の第三段階(1140憶バーツ)、ラヨーンのMap Ta Phut港の第三段階開発計画(554憶バーツ)です。

日本のJBIC(国際協力開発銀行)の前田匡史総裁は、2019年3月7日にプラユット首相、ソムキット副首相との面談で、タイ高速鉄道の3空港を結ぶEEC路線について、ソフトローン(筆者注：この場合の「ソフトローン」とは、主に先進国側が発展途上国向けに緩やかな条件で貸し付ける借款のことで、先進国に対する債務返済などで国際収支上の負担が大きくなり円滑な経済開発の促進が困難に陥いらないように行われるものです。)の準備が出来ている事を確認しています。

また、日本の銀行がチャチューンサオ県のスマートシティー構想への投資も確認しています。

ソムキット副首相は、中国と日本がタイのEEC計画の開発で協力して投資を推進をする事は、両国にとって非常に有意義である事を語りました。

その上でソムキット副首相は「政府は、今月中に民間企業との間で5つの主要インフラプロジェクトの契約を締結することを約束します。」と語り、その上で「政府はEEC計画を実施するのに4年を要しました、そしてこれらの重要なプロジェクトは、我々がインフラストラクチャの開発の目的を達成できたという証拠となるでしょう。」と語りました。

報道されている概要は、上記の通りです。

(2019年3月7日　タイ首相官邸にて
日本の国際協力銀行(JBIC)の前田匡史総裁訪問
写真：タイ首相官邸)

報道されているEEC事務局のカニット事務局長は、2019年1月31日の大阪での以下のセミナーでもパネルディスカッションでお話をされた方です。

PJA NEWS)ソムキット副首相来阪、日タイ関係の深化を訴求　大阪で講演　(2019年2月4日)
https://pattayaja.com/2019/02/04/%E3%82%BD%E3%83%A0%E3%82%AD%E3%83%83%E3%83%88%E5%89%AF%E9%A6%96%E7%9B%B8%E6%9D%A5%E9%98%AA%E3%80%81%E6%97%A5%E3%82%BF%E3%82%A4%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%AE%E6%B7%B1%E5%8C%96%E3%82%92%E8%A8%B4%E6%B1%82/

タイの大手英字メディアのBangkok Postの報道ですが、タイメディアは情報ソースがタイ国内の情報が中心となるため、日本側の報道とは表現や内容が異なる事が多くあります。

それにしても、EECのスマートシティー構想は今だ入札もされていないものですが、そもそもタイ高速鉄道の3空港を結ぶEEC路線にしても、日本のJBIC(国際協力銀行)の前田総裁が確認したという話は、どこまで日本側と認識が一致しているのでしょうか？

PJA NEWSでは、日本のJBIC(国際協力銀行)に取材しました。
JBICはPJA NEWSの取材に、本記事執筆時点の2019年現在、JBIC(国際協力銀行)としては具体的に何らかの決定はしていないとコメントしています。タイ高速鉄道の融資の決定もされていないわけですから、勿論、スマートシティー構想への融資も、何ら決定はされていません。

上記のBangkok Postの今朝の記事の原文では”The Japanese bank”と、JBICなのか他の銀行なのか微妙な表現で、日本の銀行がEECのスマートシティー構想に融資をするという報道がされていますが、この銀行とは一体どこの銀行でしょうか？銀行名が不明なため、これについては事実確認が出来ません。いずれにしても、タイ政府側の発表を元に報道されているタイ大手メディアの報道と、日本側の実情を調査した結果を突き合わせると、タイメディアの報道内容が日本側の認識と異なっている箇所がある事がわかります。

タイ政府としてはEEC開発と、日本と中国の両方を比較、競わせながら進めていきたいという思惑があるのはわかります。
それを理解し、日本政府や金融機関、企業としては、より正確な情報を収集して、冷静な判断をする事が求められています。

以下の過去記事の通り、日本では安倍政権が主導して日中協力事業として持ち上がったタイのEEC開発やタイ高速鉄道のEEC路線。

PJAニュース過去記事)タイ高速鉄道で唯一実現性の高いEEC路線、政治と現実に隔たり　(2018年11月1日)
https://pattayaja.com/2018/11/01/pja-news%E3%82%BF%E3%82%A4%E9%AB%98%E9%80%9F%E9%89%84%E9%81%9

しかしながら現状、中国政府はこれを「一帯一路」の一環だと明確に位置付けて発表しており、日本政府はこれを否定している最中にあります。

PJAニュース過去記事)中国政府「タイでの日中協力事業は一帯一路の一環」日本政府は否定(2019年3月9日)
https://pattayaja.com/2019/03/09/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%94%BF%E5%B

上記のように政府主導で進められるようになって現在に至るタイのEEC開発ですが、日本企業の目線で見ると、もともとは日本勢が多数を占めていたタイのEEC開発に、中国があからさまに交通の要衝を狙って開発する動きを見せている中、このような中国とのプロジェクトに協力する日本企業はどうしても多くはありません。加えて、そもそも国営企業がほとんどの力を占める中国の大手企業と、民間企業である日本の大手企業では企業ガバナンスの体制から大きく異なり、日本企業にとっては投資のリスクがあまりにも高く、腰が引けてしまうのです。

また、タイのEECプロジェクトを現場にいる日本人の視点で見ると、中国からの投資に注目が集まるになった現在、中国の影響力が増して日本の影響力が低下していることから、日本企業の投資において多様な面に変化が表れてきています。これについての具体的なケースについては今後詳報の予定です。

中国から見れば、軍事上の交通の要衝でもあるタイを、国として抑えておきたいという事情があります。
しかしながら日本にとっても、タイは日本へのシーレーンの防衛にも重要な位置づけであり、生産を協力して一緒に成長していく親日国としても重要な国です。そしてEECは、日本とタイとで協力し開発する象徴的なプロジェクトですから、日本側でもプレゼンスを上げる取り組みは官民を挙げて必要でしょう。

その中で、この中国との協力プロジェクトというスタンスをどのように考えればよいのか、日本側の現場は困惑をしています。
これについてPJA NEWSでは、日本の政界からも意見をお伺いし考察する記事を報道の予定で、現在取材を進めています。

参考過去記事)PJA NEWS)タイのコラム「中国と日本ではODAの質が違う！」　(2018年12月17日)
https://pattayaja.com/2018/12/17/pja-news%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%