2019年5月29日 PJA NEWS) 特集:選挙に行こう!2019 (9)
選挙に行こう!2019(9)在外投票の国民審査、投票不可は違憲:東京地裁
昨日の2019年5月28日、日本の東京地裁(森英明裁判長)は「在外国民に審査権の行使を認めないのは憲法違反」とし、国に対し1人あたり5000円の賠償を命じる判決を下しました。
海外に居住する邦人が在外投票をする際は、最高裁判所の裁判官の国民審査には現在、在外投票では投票できません。
これについて憲法が保障する法の下の平等などに違反する違法状態だと訴えた、米国在住の映画監督想田和弘氏(48)など男女5人を原告とする裁判で、投票不可を「違憲」とする判決が出たものです。
この判決について、日本の日経新聞が次のように伝えています。
日経新聞)在外邦人の国民審査、未制度化は「違憲」 東京地裁判決 (2019年5月28日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45349670Y9A520C1CR0000/
判決で森裁判長は「憲法は国民に対し投票する機会を平等に保障している」と指摘。技術的にも「自書式投票を採用するなど国民審査を実施することは可能。やむを得ない事由があったとは到底言えない」として憲法に違反すると判断した。
国民審査を巡る2011年の同種訴訟の判決で、東京地裁は海外から国民審査に投票できないことを「合憲性に重大な疑義がある」と指摘していた。
その後も国が立法措置を講じなかったことについて、森裁判長は「在外審査制度の創設についてなんらの措置もとらず、原告が(17年衆院選と同時実施の)前回国民審査で審査権を行使できなかった事態に至ったことに正当な理由はうかがわれない」と非難。「長期間にわたる立法不作為に過失が認められることは明らか」として、国の賠償責任を認定した。
現在、海外に居住する邦人は約135万人に達しており、統計を開始した1968年以来で最多となっています。
海外に居住する邦人の増加に伴い、2000年の公職選挙法改正で在外邦人は比例代表で投票ができるようになりましたが、2005年に最高裁は比例代表に限定したのは違憲と判断、2007年に再改正法が施行され、選挙区も投票ができるようになりました。現在、海外に居住する邦人の有権者は、在外選挙人名簿に登録すれば比例代表と選挙区の両方に、日本大使館や領事館などで投票したり郵送で投票したりすることができます。
PJAニュース参考過去記事)選挙に行こう!2019(2)在外投票はこんなに簡単!まずは早めに登録を (2019年2月25日)
https://pattayaja.com/2019/02/25/%e9%81%b8%e6%8c%99%e3%81%ab%e8%a1%8c%e3%81%93%e3%81%8620192%e5%9c%a8%e5%a4%96%e6%8a%95%e7%a5%a8%e3%81%af%e3%81%93%e3%82%93%e3%81%aa%e3%81%ab%e7%b0%a1%e5%8d%98%ef%bc%81%e3%81%be%e3%81%9a%e3%81%af/
しかしながら、現在も海外に居住する邦人には、最高裁の裁判官を罷免するかどうかを投票する国民審査への投票は認められていません。昨日の地裁判決は、これを違法として国に賠償責任を認めた画期的な判決です。
尚、昨日の判決では、原告が「次の国民審査で原告が投票できる」と地位確認の請求をしていた点については「訴えが不適法」として却下しています。そのため、次の国民審査で海外に居住する邦人も投票できるわけではありません。
しかしながら、昨日の判決を受けて今後は法改正等が行われる事で、海外の邦人も近い将来に国民審査の投票もできるようになることが期待されます。
本訴訟担当の塩川弁護士「国民審査権は民主制にとって重要な権利」
PJAニュースでは昨日の判決を受けて、本訴訟を担当した塩川泰子弁護士(第二東京弁護士会、マーベリック法律事務所所属)に取材しました。
Q:本判決を受けて、ご感想は?
当然のことを、正面からきちんと認めた判決だと思います。
Q:判決を受けて、どのような効果が期待されますか?
海外に住む人にも司法を監視することを可能にしました。
また,判決では,国民審査権が国民固有の権利だと正面から認められ,内外の国民の中でも,改めて国民審査権が民主制にとって重要な権利だと顧みられることと期待します。
裁判所も重要な国家権力の一作用です。
裁判所は,多数決の論理でも侵されてはならない権利を守るための権限を与えられていますが,裁判所が適切にその権限を行使しているかは,国民による監視が重要です。
そのための国民審査権を海外に在住している人に行使させずに来たことは,許されがたい違憲状態であり,判決に沿って,速やかに対応されることを望みます。
参考塩川弁護士所属:マーベリック法律事務所
http://www.maverick-law.jp/
国民審査は、最高裁長官の選定に影響
塩川弁護士の言う通り、国民審査権は民主制にとって、司法を国民のものとするために非常に重要な権利です。
日本の国民審査の制度は、もともとは第二次世界大戦後に日本を統治していたGHQの提案により憲法改正案に導入されて、日本国憲法第79条第2項及び第3項となって、最高裁判所裁判官国民審査法と合わせて運用されている制度です。
現状の制度では、日本の有権者は以下のサンプルのような投票用紙に、罷免したい裁判官にバツを書いて投票し、この罷免したい票が過半数となった場合に裁判官は罷免されるとしています。
一度審査を受けて罷免されなければ、その後10年は審査を受けることはありません。
この国民審査の投票は、最高裁判所の裁判官に任命されてから最初の衆院選と同時に行われますが、もともと衆院選に国民の関心が強く向いている折に最高裁の裁判官の国民審査に関心が集まる事は少なく、過半数の国民が罷免を求める事は考えにくいため、本制度で罷免される事はまずありえないと言われています。勿論、過去にこの制度で罷免された例はありません。
アメリカでは最高裁判事の経歴や実績などが詳報されるのに比べると、日本ではそのような報道は少なく、国民の多くは最高裁判事の名前も知らない事から、罷免を求める為の情報そのものが少なく、実効性は懐疑的であるという声も多くあります。
事実、GHQの司法担当だったアルフレッド・オプラー氏は、日本で初めて実施された第一回国民審査で裁判官全員が信任された結果を受けて「最高裁の裁判官について多くの人が関心を持つようになることがあるのか、かなり疑問だ」と感想を記し、「審査制度は裁判官の任命に関する実質的なチェックというより、国民主権の象徴的な制度と解釈したい」と記しています。
このような事から、制度上は形骸化、儀式化していると指摘されている国民審査です。
しかしながら、では国民審査に投票する事に意味がないのかというと、決してそんな事はありません。
最高裁の内側では、この国民審査制度で罷免には至らなくても、高い割合で罷免を求められた裁判官には大きな影響があるのです。この実情を、最高裁内部にも長く勤務した元裁判官で、現在は明治大学法科大学院専任教授の瀬木比呂志教授が、次のように語っています。
ビジネスジャーナル)自民党、得票率わずか35%でも大多数 ゆがんだ政治を許す裁判所、その改革方法とは?(2014年12月13日)
https://biz-journal.jp/2014/12/post_8277_2.html
「国民審査で他の裁判官よりもかなり高い割合で×がつくと、その人物は次の最高裁判所長官となることはかなり難しくなります。もちろん、国民が罷免を求めた理由がメディアによって明らかにされ、広く報道される必要はあります。そういう状況になれば、国民審査の結果は無視できません」(瀬木氏)
長官に誰が就任するかは、最高裁にとって重要な意味を持つ。
※明治大学法科大学院専任教授:瀬木比呂志教授
https://www.meiji.ac.jp/laws/teacher/segi.html
瀬木教授の語る通り国民審査で過半数が罷免を求めるという事態は考えにくくても、罷免を求められた割合が高くなれば、最高裁の内部では最高裁長官になる事は難しくなるのです。結果、この国民審査の結果は最高裁長官を選任する事に強く影響しており、司法に大きな影響力を与えています。
※瀬木比呂志教授の最高裁の実情の問題点の説明は、特に以下の2冊の本に詳しく書かれています。。
Amazon)絶望の裁判所(講談社)
https://www.amazon.co.jp/dp/B00IHTONIG/
瀬木教授は昨年末までアメリカで勤務され、新刊はアメリカの司法と比較する考察などを加えた、以下の社会派エッセイです。
筆者は瀬木教授とも交流をさせてもらっており、日本の裁判所内での実務や実情など多くの勉強をさせてもらっていますが、筆者としては以下の社会派エッセイの新刊は、瀬木教授が米国の司法などについても客観的に鋭い洞察で分析を進められ、それを日本と比較していく様子が瀬木教授らしく表現されており、とても面白いと思います。
Amazon)裁判官・学者の哲学と意見(現代書館)
https://www.amazon.co.jp/%E8%A3%81%E5%88%A4%E5%AE%98%E3%83%BB%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%81%AE%E5%93%B2%E5%AD%A6%E3%81%A8%E6%84%8F%E8%A6%8B-%E7%80%AC%E6%9C%A8-%E6%AF%94%E5%91%82%E5%BF%97/dp/4768458424/
※)上記の各本のうち、司法における「手続き上の正義」については、以下の過去記事でも掲載しています。
PJAニュース)NACC(国家汚職防止委員会)への弾劾を求めるキャンペーンが始まる (2018年12月29日)
https://pattayaja.com/2018/12/29/pja-newsnacc%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%BC%BE%E5%8A%BE%E3%82%92%E6%B1%82%E3%82%81%E3%82%8B%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%81%8C%E5%A7%8B%E3%81%BE%E3%82%8B%EF%BC%81/
この重要な最高裁裁判官の国民審査を、在外投票でも認めなければ違憲であるという判決が出ました。
これにより、近い将来には在外投票でも国民審査に投票ができるようになることが期待されています。
(PJAニュース特集 選挙に行こう!2019)
日本では7月に重要な参議院選挙が予定されています。以下の過去記事の通り、これは衆参同日選となる可能性も指摘されている、日本の行く末を決めるための重要な選挙です。
タイなど海外に在住の日本人の方は、7月の選挙は在外投票などを利用して、是非投票をしてください。そのためには在外選挙人名簿への登録をバンコクの在タイ日本国大使館などで、急ぎで実施する事が必要です。
その方法は以下の過去記事の「在外投票はこんなに簡単!まずは早めに登録を」の通り、パスポートを持って申請書を記入して出せば、わずか5分ほどで完了する簡単なものです。(※在留届提出者の場合、在留届の提出がされていない方は、タイに3か月以上居住している事がわかる賃貸契約書なども必要となります。詳細は以下記事をご覧ください。)
7月の選挙に在外選挙人名簿登録が間に合うかどうか、5月29日の現在は既に確実ではなくなっていますが、PJA NEWSで取材し調査した所、バンコクの在タイ日本国大使館で5月中の明後日までにも急ぎで手続きをすれば、まだ間に合う可能性があります!
この選挙は、日本の今後を決定する非常に重要な選挙となります。
タイなど海外に在住する日本人も、7月の選挙に投票しましょう!
大衆は愚衆である。
だから、この愚かな大衆に意見を聞くよりは、偉大なる一人の賢人があらわれて、その独裁によって政治が行われることが、もっとも望ましい。かつての大昔、だれかがこんな考えを世に説いて、それが今日に至るも、なお一部には、達見として尊ばれているようである。
たしかに大衆には、こうした一面があったかもしれない。そしてこうした考えから、多くの誤った独裁政治、権力政治が生み出され、不幸な大衆をさらに不幸におとしいれてきた。
しかし、時代は日とともに進み、人もまた日とともに進歩する。今や大衆は、きわめて賢明であり、そしてまたきわめて公正でもある。
この事実の認識を誤る者は、民主主義の真意をふみはずし、民主政治の育成を阻害して、みずから墓穴を掘り進むことになるであろう。
くりかえしえて言うが、今日、大衆はきわめて賢明であり、またきわめて公正である。
したがって、これを信頼し、これに基盤を置いて、この大衆に最大の奉仕をするところに、民主政治の真の使命があり、民主主義の真の精神がひそんでいると思うのである。
国家繁栄への道も、ここから始まる。
松下幸之助(*)の「道をひらく」(PHP文庫、1968年5月1日初版刊行)に載っている言葉の一つです。
松下幸之助が1968年に書いた通り、大衆は本来、きわめて賢明で公正であり、それを前提としたのが戦後日本の民主主義の根幹です。
松下は「経営の神様」とまで言われた名経営者です。
松下は自身の経営哲学を説明した際にも、大衆は賢明、公正であり、正しい商品を選ぶという事を語っている記録がありますので(1952~59年頃の松下の発言をまとめた本「道行く人もみなお客様」など)、松下の信条として同様の話をいつもしていたものだと思います。
松下の取り組んだ商売の世界でも、大衆は確かに非常に賢明、公正に企業や商品を選ぶ購買行動をしているわけですから、この松下の言葉は、民主主義国家における選挙も同様に、日本の国民は賢明に投票し、民主主義が正しく機能できるはずだという信条を語ったものだと思います。
日本の民衆である有権者の一人一人は、公正な選挙で投票をしても「どうせ何も変わらない」と思うのではなく、国民が国のあるべき姿を考えて、自由な意思により7月の選挙にも投票し、国民のために政治を変える事が必要とされています。
(*)松下幸之助 現パナソニック社の創業者
Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E4%B8%8B%E5%B9%B8%E4%B9%8B%E5%8A%A9
PJAニュース 特集:選挙に行こう2019 過去記事)
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