2019年6月9日 PJA NEWS)

在外投票の国民審査投票不可は違憲、海外でも話題に

以下の、2019年5月28日に日本の東京地裁で、在外投票の国民審査での投票不可は違憲という判決が出て、国に賠償命令が出た事が海外でも話題になっています。

PJAニュース)選挙に行こう!2019(9)在外投票の国民審査、投票不可は違憲:東京地裁(2019年5月29日)
https://pattayaja.com/2019/05/29/%E9%81%B8%E6%8C%99%E3%81%AB%E8%A1%8C%E3%81%93%E3%81%8620199%E5%9C%A8%E5%A4%96%E6%8A%95%E7%A5%A8%E3%81%AE%E5%9B%BD%E6%B0%91%E5%AF%A9%E6%9F%BB%E3%80%81%E6%8A%95%E7%A5%A8%E4%B8%8D%E5%8F%AF%E3%81%AF/

このニュースは日本のメディアでも以下の朝日新聞の英字版のように、判決翌日には英字紙版などでも大きく報道され、海外でも話題となってきています。

The Asahi Shinbun)Court blasts Diet inaction for violating rights of voters abroad (2019年5月29日)
裁判所は、海外の有権者の権利を侵害していると国の怠慢を批判

http://www.asahi.com/ajw/articles/AJ201905290034.html

報道写真を見ると、PJAニュースの前回記事でコメントをいただいた、本件担当の塩川泰子弁護士の姿も中央に大きく映っていますね。

海外では主に専門家に伝わっており、反響もそこからの内容が主なものです。
その反響内容を筆者が聞いた範囲で考えると、そもそも西側各国では民主主義社会において司法は国民の権利であるのが当然であり、この監視機能が日本で機能しているのかどうかに関心が高いのを感じます。

司法は、国民が選んだ政治家が議会で立法をする法律を元に、国民が選んだ政治家による内閣が行政権としてこれを実施する中で、国民により監視されている司法が、独立した立場から監視する為にあります。この三権分立の権力分立の基本的な考え方に対する意識の高さは、フランスのように国民が市民革命で戦って得てきた歴史のある国と、日本の戦後民主制のように、GHQからタダでもらったかのように多くの国民が思っている国では、国民の「意識の高さ」が全く違うという事を感じます。

この司法による独立性と監視の機能の重要性の違いを、西側の国の専門家の本件への反応を伺っていると強く感じます。
日本も国際的な司法標準から見て、民主主義国家としてより適切に、国民が司法を監視できるようにすることが必要です。

国民審査は、最高裁長官の選定にも影響する重要な機会

在外投票は、近年のグローバル化により海外に居住する邦人が増加しているのに伴い、注目度が高まってきています。

それに伴い、2000年の公職選挙法改正で在外邦人は比例代表で投票ができるようになりました。しかし2005年に最高裁は比例代表に限定したのは違憲と判断、これを受けて2007年に再改正法が施行され、選挙区も投票ができるようになりました。

現在、海外に居住する邦人の有権者は、在外選挙人名簿に登録すれば比例代表と選挙区の両方に、日本大使館や領事館などで投票したり郵送で投票したりすることができます。しかしながら、現在も海外に居住する邦人には、最高裁の裁判官を罷免するかどうかを投票する国民審査への投票は認められていません。

本件の地裁判決は、これを違法として国に賠償責任を認めた意味で、画期的な判決です。

塩川弁護士も前回記事のコメントで語っている通り、最高裁への国民審査権は、独立した権力である司法を国民のものとするために、司法を監督する最高裁の判事を国民が審査するという、民主制において重要な国民の権利の一つです。

日本の国民審査の制度は、もともとは第二次世界大戦後に日本を統治していたGHQの提案により憲法改正案に導入された制度です。制度上は、有権者は以下のサンプルのような投票用紙に、罷免したい裁判官にバツを書いて投票して、この罷免したい票が過半数となった場合に裁判官は罷免されるとしています。一度審査を受けて罷免されなければ、その後10年は審査を受けることはありません。

(国民審査の投票用紙サンプル)

国民審査の投票は、最高裁判所の裁判官に任命されてから最初の衆院選と同時に行われますが、もともと衆院選に国民の関心が強く向いている折に最高裁の裁判官の国民審査に関心が集まる事は少なく、過半数の国民が罷免を求める事は考えにくいため、本制度で罷免される事はまずありえません。勿論、過去にこの制度で罷免された例はありません。

アメリカでは最高裁判事の経歴や実績などが詳報されるのに比べると日本ではそのような報道は少なく、国民の多くは最高裁判事の名前も知らない事から、罷免を求める為の情報そのものが少なく、実効性は懐疑的であるという声も多くあります。

事実、GHQの司法担当だったアルフレッド・オプラー氏は、日本で初めて実施された第一回国民審査で裁判官全員が信任された結果を受けて「最高裁の裁判官について多くの人が関心を持つようになることがあるのか、かなり疑問だ」と感想を記し、「審査制度は裁判官の任命に関する実質的なチェックというより、国民主権の象徴的な制度と解釈したい」と記しています。

このような事から、制度上は形骸化、儀式化していると指摘されている国民審査です。
しかしながら、では国民審査に投票する事に意味がないのかというと、決してそんな事はありません。
最高裁の内側では、この国民審査制度で罷免には至らなくても、高い割合で罷免を求められた裁判官には大きな影響があるのです。

この実情を、最高裁内部にも長く勤務した元裁判官で、現在は明治大学法科大学院専任教授の瀬木比呂志教授が次のように語っています。

ビジネスジャーナル)自民党、得票率わずか35%でも大多数 ゆがんだ政治を許す裁判所、その改革方法とは?(2014年12月13日)
https://biz-journal.jp/2014/12/post_8277_2.html

「国民審査で他の裁判官よりもかなり高い割合で×がつくと、その人物は次の最高裁判所長官となることはかなり難しくなります。もちろん、国民が罷免を求めた理由がメディアによって明らかにされ、広く報道される必要はあります。そういう状況になれば、国民審査の結果は無視できません」(瀬木氏)

長官に誰が就任するかは、最高裁にとって重要な意味を持つ。

※明治大学法科大学院専任教授:瀬木比呂志教授
https://www.meiji.ac.jp/laws/teacher/segi.html

(瀬木教授 ご自宅の書斎にて
写真:筆者撮影)

瀬木教授の語る通り国民審査で過半数が罷免を求めるという事態は考えにくくても、罷免を求められた割合が高くなれば、最高裁の内部では最高裁長官になる事は難しくなるのです。結果、この国民審査の結果は最高裁長官を選任する事に強く影響しており、司法に大きな影響力を与えています。

※瀬木比呂志教授の最高裁の実情の問題点の説明は、特に以下の2冊の本に詳しく書かれています。。

Amazon)絶望の裁判所(講談社)
https://www.amazon.co.jp/dp/B00IHTONIG/

Amazon)ニッポンの裁判(講談社)
https://www.amazon.co.jp/%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%9D%E3%83%B3%E3%81%AE%E8%A3%81%E5%88%A4-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E7%80%AC%E6%9C%A8%E6%AF%94%E5%91%82%E5%BF%97-ebook/dp/B00S5PBLIM

瀬木教授は昨年末までアメリカで勤務され、新刊はアメリカの司法と比較する考察などを加えた、以下の社会派エッセイです。
筆者は瀬木教授とも交流をさせてもらっており、日本の裁判所内での実務や実情など多くの勉強をさせてもらっていますが、筆者としては以下の社会派エッセイの新刊は、瀬木教授が米国の司法などについても客観的に鋭い洞察で分析を進められ、それを日本と比較していく様子が瀬木教授らしく表現されており、とても面白いと思います。

Amazon)裁判官・学者の哲学と意見(現代書館)
https://www.amazon.co.jp/%E8%A3%81%E5%88%A4%E5%AE%98%E3%83%BB%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%81%AE%E5%93%B2%E5%AD%A6%E3%81%A8%E6%84%8F%E8%A6%8B-%E7%80%AC%E6%9C%A8-%E6%AF%94%E5%91%82%E5%BF%97/dp/4768458424/

※)上記の各本のうち、司法における「手続き上の正義」については、以下の過去記事でも掲載しています。

PJAニュース)NACC(国家汚職防止委員会)への弾劾を求めるキャンペーンが始まる (2018年12月29日)
https://pattayaja.com/2018/12/29/pja-newsnacc%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%BC%BE%E5%8A%BE%E3%82%92%E6%B1%82%E3%82%81%E3%82%8B%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%81%8C%E5%A7%8B%E3%81%BE%E3%82%8B%EF%BC%81/

この重要な最高裁裁判官の国民審査を、在外投票でも認めなければ違憲であるという判決が地裁で出て、海外も含めて話題を集めています。

これにより、近い将来には在外投票でも国民審査に投票ができるようになることが期待されています。

参考過去記事)

選挙に行こう!2019(10)衆参同日選、6月の自民党調査次第か? (2019年5月31日)
https://pattayaja.com/2019/05/31/%E9%81%B8%E6%8C%99%E3%81%AB%E8%A1%8C%E3%81%93%E3%81%86201910%E8%A1%86%E5%8F%82%E5%90%8C%E6%97%A5%E9%81%B8%E3%80%816%E6%9C%88%E3%81%AE%E8%87%AA%E6%B0%91%E5%85%9A%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E6%AC%A1%E7%AC%AC/

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