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タイ)文大統領、BangkokPostで日本批判、アセアンに協力を求める

2019年8月31日 PJA NEWS)

タイ)文大統領、BangkokPostで日本批判、アセアンに協力を求める

昨日の2019年8月30日、タイの大手英字メディアであるBangkokPostは、韓国の文大統領からの書面インタビューの結果を掲載しました。

BangkokPostに掲載された記事のオンライン版は、以下のものです。

BangkokPost)Taking strong partnerships forward (2019年8月30日)
BangkokPost)協力なパートナーシップの推進を
https://www.bangkokpost.com/thailand/general/1739147/taking-strong-partnerships-forward

記事のサブタイトルは「韓国の文大統領、タイ、アセアン、そして北朝鮮との関係を強化」(South Korean President Moon Jae-in on ties with Thailand, Asean, and North Korea)と書かれており、北朝鮮との協力をアセアンで強化する主張が印象強く書かれています。

(韓国の平昌オリンピックの際の日韓首脳会談の折
写真:内閣広報室)

韓国の文大統領は明日の2019年9月1日~9月3日にバンコクを訪れ、タイとのGSOMIA締結を推進する事を含めて協議する事を予定しており、それに先立ってタイ大手メディアで韓国側の主張を訴えたものと思われます。
BangkokPostの記事でも、記事の冒頭に9月1日~3日にバンコクを訪れる予定である事が書かれています。

文大統領のBangkokPostへのインタビュー回答は、書面での回答文が長いため、概要を書くとおよそ以下のような内容です。
日本の輸出管理の措置について、歴史問題による経済報復であり自由貿易を破壊するものだと主張している箇所については、わかりやすいように枠をつけ、ここは概要ではなく、できるだけ正確かつ詳細な訳を掲載します。

原文については、上記のBangkokPostの記事をご覧下さい。

以下、BangkokPostに掲載された韓国の文大統領の書面回答の概要です。

Q:9月のタイ訪問で期待される成果は?

A:(最初にタイへの感謝の文言を答えた上で)韓国とタイは戦略的パートナーとして重要な関係にあり、この関係がさらに前進する事を望んでいます。これについて、タイのプラユット首相と構想し議論することを楽しみにしています。また、タイは2019年にアセアン議長国もされている中で、アセアンと韓国との協力についても話し合う予定です。

Q:韓国とタイの二国間関係をどのようなものだと考えられていますか?特にタイとの関係を強化したい分野は?

A:タイと韓国との関係は深く、経済でもタイには韓国企業が約400社進出し、年間の取引額は140憶ドルを超えています。民間でも観光や、K-Popをはじめとする文化でも交流は盛んに行われています。

タイと韓国の将来的な関係には特に期待をしています。既にインフラ、水資源管理、環境、国防、防衛産業などで協力をしていますが、今後は特に次世代の乗り物、ロボット、生物化学、スマートエレクトロニクスの分野で、タイ政府の進めるThailand4.0の政策に合致した協力を推進していくことができると考えています。

Q:北朝鮮の非核化について、アセアンの役割はどのようなものだとお考えですか?
朝鮮半島の和平プロセスが進展した場合、アセアンはどのような利益を得ることができるのでしょうか?

A:(アセアンへの支援の御礼文を書いた上で)、北朝鮮は、2000年にはタイに多くの支援をしてもらい、アセアンのフォーラムにも出席しました。このようにアセアンは北朝鮮とのコミュニケーションにおいて、非常に重要な役割を果たしてこられています。先だっての米朝首脳会談もシンガポール、ハノイで行われた事実を考えても、アセアンが非常に建設的な役割を果たしてくれている事がわかります。

朝鮮半島の平和と安定は、その近隣諸国だけでなく、アセアンの各国にも平和と繁栄をもたらすものですから、引き続きアセアン各国から支援をいただける事を願っています。

Q:北朝鮮の金委員長は、11月に韓国の釜山で予定されている韓国・アセアン特別首脳会議、もしくはバンコクで予定されている東アジア首脳会議(EAS)に招待されるべきだとお考えですか?
北朝鮮の金委員長は文大統領に、なぜ、どのように、北朝鮮の非核化を約したのでしょうか?

A:11月に釜山で予定されている韓国・アセアン特別首脳会議に北朝鮮の金委員長が招待され出席すれば、朝鮮半島と東アジアの平和のために非常に有意義な機会となるでしょう。
また、バンコクで予定されている東アジア首脳会議に出席すれば、東アジア諸国と北朝鮮が協力できる分野で、具体的な協力策を話し合うことができるでしょう。

勿論、北朝鮮を招待するかどうかの判断は、米国と北朝鮮との対話を含む、朝鮮半島の和平プロセスを鑑みて決定されるべきものです。韓国は、アセアン各国との関連協議に引き続き取り組んでまいります。

金委員長はこれまでの南北、米朝首脳会談でも、核の代わりに経済発展を選ぶ意向を示しています。
最も重要な事は、北朝鮮が具体的な非核化の動きを進める事にあります。
アセアンには、北朝鮮が核を捨てて、経済協力を通じて私たち全員と協力してくれるようになるために、重要な役割を果たしてほしいと思います。

(筆者注:回答はここまでで、北朝鮮の金委員長がなぜ、どのように非核化を約したかという質問への回答はありません。)

Q:韓国政府の「ニューサザン計画(*)」で、アセアンとインドが焦点となっているのはなぜですか?

(*)ニューサザン計画(New Southern Policy):今年3月に韓国の文政権が発表した政策。東南アジアやインドなどとの貿易・交流の促進に注力する方針を示した。

A:アセアンは韓国にとって2番目に大きい貿易相手であり、互いの交流も多く、地政学的にも重要です。
インドも急激に成長しています。同地域における平和と安定を目指して2015年に戦略的パートナシップも締結しました。

Q:アセアンは、韓国と日本との間の問題と同様に、米中の貿易戦争の悪影響を心配しています。
この膠着状態を解決するために、アセアンが出来る事はあるのでしょうか?

A:アセアン各国は、世界の他のどの地域よりも、お互いに対する尊敬に基づいて関係を構築し、共通の繁栄を享受しています。

アセアンと韓国、日本は、自由な貿易秩序によって経済成長をしてきました。
だからこそアセアンと韓国は、自由貿易こそが繁栄を共有するための道である事を自らをもって証明し、そのための努力を通じて、大国間の貿易紛争や保護主義の広がりを防がないといけません。

日本が歴史問題に関して、韓国に対し不当な経済報復を行った事は、非常に心配なことです。
日本は長年にわたり、自由貿易による恩恵を受けてきており、国際舞台で自由貿易を積極的に支持してきた国ですから、さらに衝撃的な事です。
この日本の措置による被害は、韓国だけでなく、世界経済にも悪影響を及ぼします。

韓国政府としてはは、日本政府との対話を通じて外交的に問題を解決する意向です。

現在、世界は高度に洗練された分業を通じて、共通の繁栄を享受しています。
韓国と日本は何千年にもわたり、協力をしてきました。
韓国の立場は、歴史問題は、経済協力とは別に扱われるべきであり、歴史問題がどうあろうと、経済協力は維持されなければならないという立場です。経済とは領域が異なる(歴史認識の)問題のために、お互いの経済を傷つける事は両国にとって無意味であり、その報復の応酬は望ましくありません。

日本政府が対話と協力の交渉のテーブルに戻った時には、韓国政府はいつでも日本政府を受け入れて協力する準備が出来ています。
東アジアの将来の世代が、各国の協力によって達成された繁栄を享受できるように、日本と韓国の両国がその責任を果たす事を願っています。

韓国と日本の両国に協力してくださっている親友たるアセアンに、日本を対話と外交協議を行うように導くために、御協力をお願いしたいと思います。

この後に、韓国がメコン流域の開発に興味を持っている理由を尋ねる質問、東アジアの今後の政策を訪ねる質問の質疑応答があり、書面インタビューは終了しています。

その上で、BangkokPostのエディターの論評が加えられています。論評では韓国の文大統領がタイとの関係の強さをアピールする趣旨を強調し、その上で末尾の一文で、文大統領が日本と韓国との外交的な問題を、アセアン諸国が緩和させることができ、それを望んでいる事を伝えています。

報道されている概要は、上記の通りです。

上記の記事だと、あたかも日本が先に歴史問題を経済に持ち込んで経済報復をしてきた、韓国政府がこれについて外交的努力を重ねているが日本政府が応じていない、だからアセアンに助けを求めるという韓国側の主張のみが印象付けられてしまいます。
また、やはり日本の輸出管理上の措置を「歴史問題に関しての報復を、国際社会に嘘をついて貿易管理だと主張して、日本は韓国に被害を与えている」という主張を強調してきています。

韓国側は外交部の官僚だけでなく、政治のトップである大統領が自ら語る形で、タイメディアで韓国側の主張を行ってきました。この記事が掲載されたバンコクポストは、タイの経済紙の中でも特に知識人層が多く呼んでいるメディアですから、タイやアセアン各国の英字メディアの中でも影響力が大きいメディアです。

そこで、上記のように日本との問題を書かれている以上、日本側も冷静かつ的確に、きちんとした反論を海外メディアをも使って実施することが必要となっています。

なお、上記の文大統領のBangkokPostへの主張は、文大統領自身は不支持率も50%を超えている中で、そもそも文大統領の長女のタヘ氏とその家族も、2018年7月からタイに移住している状況にある(*)ことから、タイ世論を味方につけておきたいという意向が特にあるのかもしれませんね。

(*)文大統領の長女のタヘ氏が2018年7月からタイに移住している事は、2019年1月29日に自由韓国党の郭尚道議員が移住の事実を明らかにしており、これは韓国の朝鮮日報2019年1月31日などで報じられています。
タヘ氏のこの移住は当時、文大統領の娘婿の元勤務先の会社に韓国政府が約20億円の支援をしていた疑惑が韓国で報じられ、大統領府がメディアの取材に沈黙をしていた時の出来事でした。

日本側も冷静で的確な主張と説明を、海外へ発信することが必要

現在トピックとなっている「徴用工問題」についてはPJAニュースでも以下の通り、連載「誤解が広がる日本」の中で経緯を取り上げていますので、問題の内容と経緯については以下記事を御覧下さい。

誤解が広がる日本(2) 韓国の”徴用工問題”、ねつ造の写真や像が世界中に拡散 (2019年4月7日)
https://pattayaja.com/2019/04/07/3822/

上記の記事の通り、実際には当時の徴用工は日本人と比べて差別がされた事実はありません。
それでも日本政府は未来志向を目指して、この問題を解決してきたのです。ところが現在、日本人の写真や像をモデルにして徴用工像やねつ造写真までが出回らされて引き起こされているのが、この韓国との徴用工問題です。

日本としては、これについて対話を拒絶しているわけでは勿論ありませんが、請求権協定の違反をなくさなければ、話にならないため、これを求めている最中にあります。

一方で韓国の文大統領の視点で見ると、支持率も低下する中で日本の要求を飲めば、もう政権も維持できません。そこで韓国の文政権が仕掛けてきているのが、このような日本を批判する主張を国際的な広報活動で行い、国際世論を動かそうとする取り組みと考えるべきでしょう。

日本としては、これを放置していると、あたかも韓国の言い分のみが正しいかのような誤解がさらに広がってしまいます。
国際世論において、言わない事は伝わりません。
これをきちんと、冷静かつ的確に伝える努力が日本側に必要とされているのです。

「過去の破壊は、おそらく最大の犯罪である。」(*)
(シモーヌ・ヴェイユ 1909年2月3日 – 1943年8月24日 「根をもつこと」より)

日本は誤解がこれ以上海外に広がる事を防ぎ、日本側の対応に理解を求めるためにも、冷静で的確な反論と主張を、タイを含めた海外へより多くの頻度で実施する事が必要となっています。

(*)シモーヌ・ヴェイユ「根をもつこと」からの言葉

生前は一冊の本を出版することもなく、ナチスドイツのパリ侵攻を受けてパリから脱出し、第二次世界大戦中にロンドンで無名のままなくなったフランスの哲学者、シモーヌ・ヴェイユの言葉です。

戦後に、彼女が残したノートの一部の内容があまりに凄く深い思慮であることから、感動した知人が編集し箴言集として出版され、これが世界的なベストセラーになって、死後に有名な哲学者と評価された女性です。

その後もあちこちに残されていた膨大な原稿や手紙、ノートを知人たちが編集・出版していき、その深い思索への評価はさらに高まり、何カ国語にも翻訳されました。上記の言葉は、その中の日本語訳の本「根をもつこと」に書かれている有名な一節で、過去という歴史を大切にし、根を持つことの重要性を伝える一文です。

シモーヌ・ヴェイユの言葉は非常に普遍的な意味合いの言葉が多く、感動を呼ぶものも多くあります。それらの言葉の中で、誤解が広まる今の日本を見ていて思い出すのが上記の言葉です。

上記の言葉とともに、「根をもつこと、それは魂のもっとも切実な欲求であり、もっとも無視されてきた欲求である。」と、シモーヌ・ヴェイユは書いています。私たち日本人も、根をもつことをしっかりとして、冷静な反論を行って、日本の誤解が広げられる事を止めないといけません。

それにしても、シモーヌ・ヴェイユの残した文章を読むと、ここまでの才能と能力がありながら、全く評価されないまま一生を終えてしまう哲学者もいるのだという現実を思わされます。
もっとも本人は「神は、この地上で報われることのない努力、空虚のうちで成し遂げられた努力しか報いる力をもたないのである。空虚は恩寵を引き寄せる。空虚の中の努力のみが、キリストのいう天に宝を積むという行為となるのである」と書いているのが、とても印象的な死後に評価された哲学者です。

シモーヌ・ヴェイユ(Wikipedia) 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%8C%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%A6_(%E5%93%B2%E5%AD%A6%E8%80%85)

「根をもつこと」(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/%E6%A0%B9%E3%82%92%E3%82%82%E3%81%A4%E3%81%93%E3%81%A8-%E4%B8%8A-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%82%B7%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%8C%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%A6/dp/4003369025

※なお、フランスの政治家のシモーヌ・ヴェイユは、同姓同名の別人です。

シモーヌ・ヴェイユ<仏の政治家>(Wikipedia) 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%8

参考過去記事)

PJA NEWS)誤解が広がる日本(1)タイ現地メディア、韓国側主張のみを垂れ流す(2019年2月17日)
https://pattayaja.com/2019/02/17/%E8%AA%A4%E8%A7%A3%E3%81%8C%E5%BA%83

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