2020年6月29日 PJA NEWS)

続報:在外投票の国民審査、東京高裁は次回投票不可は違法と判断

以下の過去記事で取り上げた日本の東京地裁の判決について、東京高裁での控訴審の判決が下りました。

選挙に行こう!2019(9)在外投票の国民審査、投票不可は違憲:東京地裁 (2019年5月29日)
https://pattayaja.com/2019/05/29/4778/

一審判決は2019年5月28日、日本の東京地裁(森英明裁判長)が、「在外国民に審査権の行使を認めないのは憲法違反」とし、国に対し1人あたり5000円の賠償を命じる判決を下していました。

現状、海外に居住する邦人が在外投票をする際において、最高裁判所の裁判官の国民審査には投票できません。
これについて憲法が保障する法の下の平等などに違反する違法状態だと訴えた、米国在住の映画監督想田和弘氏(48)など男女5人を原告とする裁判で、投票不可を「違憲」とする一審判決が出たものです。

この控訴審において先週の2020年6月25日、日本の東京高裁(裁判長:阿部潤)は一審に続き、衆議院選挙の際に最高裁の裁判官の国民審査で在外投票できないことは憲法違反だと判断し、次の国民審査で在外投票ができなければ違法になると判断が下りました。

日本のNHKが次の通り伝えています。

NHK)国民審査「次回 在外投票できなければ違法」初判断 東京高裁(2020年6月25日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200625/k10012484051000.html

アメリカやブラジルなどに住む日本人の男女5人は、衆議院選挙や参議院選挙では在外投票ができるのに、最高裁判所の裁判官の国民審査に投票できないのは憲法に違反すると訴えました。

25日の2審の判決で東京高等裁判所の阿部潤裁判長は「在外選挙と同じ方法で国民審査も投票することは十分可能で、一切認めないことは憲法に違反する」と指摘し、1審に続いて憲法違反と判断しました。

さらに、次回の国民審査について「投票できなければ救済を図れない」として、在外投票ができなければ違法になるとする初めての判断を示しました。

訴えを起こした1人でアメリカに住む映画監督の想田和弘さんは会見で「国民審査は格下に見られがちだが、民主主義のシステムの中で保障されている重要な権利で、大変うれしい。国は速やかに制度を改正して権利を行使できるようにしてほしい」と話しました。

総務省は「判決の内容について精査し、適切に対応したい」とするコメントを出しました。

PJAニュースでこの判決を受けて、本訴訟を担当した弁護士の1人、塩川泰子弁護士(第二東京弁護士会)に取材しました。

本訴訟担当の塩川弁護士「正面から現状を違憲と判示、裁判所の矜持を保った判決」

「今回の判決は,正面から現状を違憲であると判示し,かつ国外に住所を有することをもって次回の国民審査で審査権を行使させないことを違法だと確認しており,裁判所の矜持を保った判決であると評価しています。原告のみなさんは,お金のためにやったわけではなく,金銭賠償では十分に回復されない性質の権利侵害ですから,審査権を行使させないことが違法だと直接的に確認した点には大きな意味があると考えます。

ただ,だからといって国家賠償を認めなくていいということにはなりません。国会での議論の不足などから,違憲性が明白であったとまではいえないとして国家賠償を否定していますが,怠慢で議論をしなかったらむしろ賠償が認められないというのはおかしな話ですので,上告を予定しています。」

国民審査は、最高裁長官の選定にも影響する重要な機会

在外投票は、近年のグローバル化により海外に居住する邦人が約140万人と言われるほど増加しているのに伴い、注目度が高まってきています。

それに伴い、2000年の公職選挙法改正で在外邦人は比例代表で投票ができるようになりました。しかし2005年に最高裁は比例代表に限定したのは違憲と判断、これを受けて2007年に再改正法が施行され、選挙区も投票ができるようになりました。

現在、海外に居住する邦人の有権者は、在外選挙人名簿に登録すれば比例代表と選挙区の両方に、日本大使館や領事館などで投票したり郵送で投票したりすることができます。しかしながら、現在も海外に居住する邦人には、最高裁の裁判官を罷免するかどうかを投票する国民審査への投票は認められていません。

本件の地裁、そして高裁判決は、これを憲法違反と認めた意味で画期的な判決です。

国民が有する最高裁への国民審査権は、独立した権力である司法を国民のものとするために、司法を監督する最高裁の判事を国民が審査するという、民主制において重要な国民の権利の一つです。

日本の国民審査の制度は、もともとは第二次世界大戦後に日本を統治していたGHQの提案により憲法改正案に導入された制度です。制度上は、有権者は以下のサンプルのような投票用紙に、罷免したい裁判官にバツを書いて投票して、この罷免したい票が過半数となった場合に裁判官は罷免されるとしています。一度審査を受けて罷免されなければ、その後10年は審査を受けることはありません。

(国民審査の投票用紙サンプル)

国民審査の投票は、最高裁判所の裁判官に任命されてから最初の衆院選と同時に行われますが、もともと衆院選に国民の関心が強く向いている折に最高裁の裁判官の国民審査に関心が集まる事は少なく、過半数の国民が罷免を求める事は考えにくいため、本制度で罷免される事はまずありえません。勿論、過去にこの制度で罷免された例はありません。

アメリカでは最高裁判事の経歴や実績などが詳報されるのに比べると日本ではそのような報道は少なく、国民の多くは最高裁判事の名前も知らない事から、罷免を求める為の情報そのものが少なく、実効性は懐疑的であるという声も多くあります。

事実、GHQの司法担当だったアルフレッド・オプラー氏は、日本で初めて実施された第一回国民審査で裁判官全員が信任された結果を受けて「最高裁の裁判官について多くの人が関心を持つようになることがあるのか、かなり疑問だ」と感想を記し、「審査制度は裁判官の任命に関する実質的なチェックというより、国民主権の象徴的な制度と解釈したい」と記しています。

このような事から、制度上は形骸化、儀式化していると指摘されている国民審査です。
しかしながら、では国民審査に投票する事に意味がないのかというと、決してそんな事はありません。
最高裁の内側では、この国民審査制度で罷免には至らなくても、高い割合で罷免を求められた裁判官には大きな影響があるのです。

この実情を、最高裁内部にも長く勤務した元裁判官で、現在は明治大学法科大学院専任教授の瀬木比呂志教授が次のように語っています。

「国民審査で他の裁判官よりもかなり高い割合で×がつくと、その人物は次の最高裁判所長官となることはかなり難しくなります。もちろん、国民が罷免を求めた理由がメディアによって明らかにされ、広く報道される必要はあります。そういう状況になれば、国民審査の結果は無視できません」(瀬木氏)

長官に誰が就任するかは、最高裁にとって重要な意味を持つ。

※明治大学法科大学院専任教授:瀬木比呂志教授
https://www.meiji.ac.jp/laws/teacher/segi.html

(瀬木教授 ご自宅の書斎にて
写真:PJA NEWS筆者撮影)

瀬木教授の語る通り国民審査で過半数が罷免を求めるという事態は考えにくくても、罷免を求められた割合が高くなれば、最高裁の内部では最高裁長官になる事は難しくなるのです。結果、この国民審査の結果は最高裁長官を選任する事に強く影響しており、司法に大きな影響力を与えています。

※瀬木比呂志教授の最高裁の実情の問題点の説明は、特に以下の2冊の本に詳しく書かれています。。

Amazon)絶望の裁判所(講談社)
https://www.amazon.co.jp/dp/B00IHTONIG/

Amazon)ニッポンの裁判(講談社)
https://www.amazon.co.jp/%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%9D%E3%83%B3%E3%81%AE%E8%A3%81%E5%88%A4-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E7%80%AC%E6%9C%A8%E6%AF%94%E5%91%82%E5%BF%97-ebook/dp/B00S5PBLIM

この最高裁裁判官の国民審査を、在外投票でも認めなければ違憲であるという判決が地裁に続き高裁でも出ました。

これにより、近い将来には在外投票でも国民審査に投票ができるようになることが期待されています。

PJA NEWS過去記事)

タイ司法で初!タイの外国人財産の相続を、相続人の申立無しで認める判決 (2019年2月12日)
https://pattayaja.com/2019/02/12/2750/

NACC(国家汚職防止委員会)への弾劾を求めるキャンペーンが始まる (2018年12月29日)
https://pattayaja.com/2018/12/29/1798/

※PJAニュースは、パタヤの有力メディアであるThe Pattaya Newsの公式パートナーとして日本語版を配信しています。

The Pattaya News(英語版)The Pattaya News(タイ語版)

 

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