PJA NEWS)2018年11月3日
本日タイ現地メディアのバンコクポストが、NACC(国家汚職防止委員会)がプラウィット副首相の”腕時計汚職”疑惑についての説明書類を受領した事を報じています。
以下が、そのバンコクポストの記事です。
Bangkok Post) NACC receives watch papers <2018年11月3日>
NACC、プラウィット副首相から腕時計疑惑についての説明書類を受領
https://www.bangkokpost.com/news/general/1569422/nacc-receives-watch-papers
このニュースの背景として、まずタイの汚職防止の取り組み経緯の説明をします。
タイの現政権であるプラユット政権は、2014年の就任当初から汚職問題に対して厳しく取り締まる姿勢を見せていました。
翌年の2015年7月10日、プラユット政権はタイの汚職防止法の改正法を施行しました。
この改正法は、タイで汚職問題を解決する為と同時に、タイが2011年から加盟しているUNCAC(国連汚職防止条約)の国際基準に合わせた基準で厳罰化と外国人贈賄罪を成立される為のものでした。
その内容はBaker McKenzieの翻訳を引用すると、以下のようなものです。
タイ汚職防止法(2015年7月10日改正法施行)
<Organic Act on Counter Corrpution, No.3 B.E. 2558(2015)>
1)公務員は、何らかの職務の実施又は不実施の見返りに、その合法性を問わず、自己又は他人のために財物又はその他利益を要求、受取、又は受取に同意した場合、終身刑以下又は死刑に処される。
2)何人も、利益又は損害が発生するかを問わず、不正もしくは不法に、又は個人的影響力を行使し、公務員に何らかの職務の実施又は不実施を説得するため、財物又はその他利益を要求、受取、又は受取に同意した場合、最大5年間の懲役に処される。
3)何人も、公務員に対し、不正な行為、遅延、又は不実施を説得するため、財物又はその他利益を贈与、提供、又は贈与に合意した場合、最大5年間の懲役に処される。
(http://www.japandeskbakermckenziebangkok.com/alerts/20150724より引用。
下線、太字は筆者追記)
この改正法は、その対象をタイ政府職員、外国政府職員、及び国際機関職員を定義に含み、この改正法からタイでも外国公務員贈賄罪が適用されるようになりました。
また、上記内容を見るとわかるようにタイの公務員が収賄罪、つまり賄賂を受け取った場合は、最高刑が死刑という厳罰となったものです。
一方で2)の通り、公務員以外が公務への影響力を理由に賄賂を受け取った場合の収賄罪は、最高刑が懲役5年となっています。
タイの報道を見ていると、賄賂の受け取りが見つかって追及されている側が、言い訳のように賄賂を受け取ったのは”公務員の服装をした偽の公務員だ!”という主張を行う事はよくある話なんですが、これは公務員であるとなると上記の改正法により最高刑が死刑の重罪となるため、最高刑が5年の公務員以外だと主張したがるからです。
パタヤでも、そのような事例は多く見られます。
参考に、最近の現地報道で報道されている事例を一つ以下に紹介します。
BangkokPost) Pattaya officer dismissed in bribery case (2018年6月2日)
バンコクポスト)パタヤの公務員が収賄事件で解任
https://www.bangkokpost.com/news/general/1477529/pattaya-officer-dismissed-in-bribery-case
上記報道の概要は次のような内容です。
交通違反容疑でパタヤ警察署に捕まったタイ人女性が、パタヤ署の署員から、事件をもみ消す代わりに2万バーツの賄賂を要求され、さらに公衆の面前でセクハラをされた事を訴えました。
報告を受けてチョンブリ県警本部のナチャサート県警本部長もただちに調査し、該当者を即時解雇。パタヤ署のアピチャイ署長も即座に調査して取り締まりを実施し、当日にパタヤ署にいた、本件に関与が疑われる人間は全て調査委員会にかけられました。
この報道で説明されている経緯でも、女性は”警察官のような服を着た人間”に賄賂を要求されて支払ったと報道されています。
このような説明となる理由は前述の通り、公務員が収賄をしていたとなると上記の改正法により最高刑が死刑の重罪となるため、公務員ではないと主張したがるからです。その主張を受けて、報道の側はこのような書き方になるわけです。
このようにタイでは汚職防止の取り組みを行っています。
この汚職防止の実務のために、2015年の上記法改正の折に、NACC(国家汚職防止委員会)及びPACC(公立汚職防止委員会)<*1>が設立されました。
NACCとPACCはいずれも汚職事件の捜査、取り締まり、防止を担当する専門部門で強制捜査権も勿論あります。両者を比べると、NACCはPACCよりも、より国家の中枢の汚職問題の摘発を担当しています。
そのNACCは現在、プラウィット副首相が一個で数千万円もの高額な腕時計を多数所有していた事が昨年末から判明し、そんな高額な腕時計を多数買った資金はどこから出てきたのだ!とタイ世論で大きな話題となっている事件について、調査をしています。
この調査がどのような経過と結果をたどるか、タイ世論の注目が集まっています。
また、この腕時計問題は現在大きな反響となっている反政権ラップ”Prathet Ku Mee”でも取り上げられており、タイ政府側も”腕時計(の資金の出所)問題は現在NACCが調査中だ”と発表していたことから、さらに注目度が高まっています。
そのような経緯の中での今日のニュースが、以下のニュースというわけです。
Bangkok Post) NACC receives watch papers <2018年11月3日>
バンコクポスト)NACC(国家汚職防止委員会)、プラウィット副首相から、腕時計の疑惑についての説明書類を受領
https://www.bangkokpost.com/news/general/1569422/nacc-receives-watch-papers
報道されている内容の概要としては、以下の通りです。
高額な腕時計の資金の出所を調査しているNACCに対して、プラウィット副首相が、提出を求められていた説明書類を提出した。
この提出を受けてNACC側はコメントで、”多くの内容についてプラウィット副首相は詳細な説明を拒絶している”と明かした。
事件は、昨年12月4日にプラウィット副首相が政府のイベントで、時価約2500万バーツ(約8千万円)の高額な腕時計をしていた事が発覚したことから、大きな反響を呼んでいた。
その後にプラウィット副首相は合計25個もの高級な腕時計を所有していた事実が判明した。
それらは閣僚としての資産申告で申告されていなかった。そのためNACCが現在、調査している。
というのが報道されている概要です。
このタイの閣僚の資産申告と公開制度は、閣僚の家族の資産や、それこそもう別居した元妻の資産など、どこまで家族資産を申告すればよいのかの定義がされていない所が多く、これを悪用して申告を回避する方法がある事が問題となっています。
NACCや現政権は、その申告の回避ができないように制度の修正を行っている最中にあるのですが、この論点なども報道されています。
いずれにしても、選挙も来年2月に予定されている中で、このような疑惑への取り締まりをきちんと行う事、それをアピールする事は現政権にとっても有効な策でしょう。タイ世論の注目のポイントは勿論、プラウィット副首相への取締が実際にどこまでされるのか?という点にあります。
日本人としての視点で考えると、日本人や日本企業としては、タイの汚職事件に巻き込まれて賄賂を支払った場合、タイの上記改正法で贈賄罪となりうるのは勿論ですが、加えて日本法でも、日本人や日本法人が海外で公務員などに賄賂を支払う事は刑事で厳罰をもって禁じられているため、厳に慎まないといけません。
その意味でも、タイの現政権が汚職を取り締まり減らしてくれる事は、日本からの投資を安全に出来るよう環境を整えるために重要な事ですので、このような取り組みがより進むように協力をしていくべきでしょう。
なお、PJAのあるチョンブリ県のパタヤやシラチャでは、汚職防止の取り締まりは主にPACCが担当してくれており、PACCのオフィスはチョンブリ県にもあります。
パタヤでは特に昨年からPACCが取り締まりを強化して行ってくれており、より安心して外国人である日本人も暮らせるように環境が変わりつつあります。
汚職問題が改善し、タイが国際的にもさらに信用されるように進んでいってほしいと思わされる現地ニュースです。
*1)記事中のPACCにおいては昨年、バンコクのPACC本部で高官の皆さまからも表敬の御挨拶をいただきましたので、この場を借りて御礼を記載します。PJAとしては、PACCの汚職問題解決のための取り組みに、外国人としても出来る限りの御協力をしてまいる所存です。
上記の今年6月のバンコクポストの記事に登場するチョンブリ県警本部長ナチャサート将軍と、PJA岩拼会長
チョンブリ県警本部、本部長室にて
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