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タイ公務員への贈賄で日本で有罪判決 日本版司法取引第一号






2019年9月15日 PJA NEWS)

タイ公務員への贈賄で日本で有罪判決 日本版司法取引第一号

タイでの発電所建設を巡って、日本企業の三菱日立パワーシステムズ(MHPS、本社:横浜市)がタイ政府の公務員へ賄賂を支払った行為が、日本で不正競争防止法違反における外国公務員への贈賄に問われた事件。

三菱日立パワーシステムズ
https://www.mhps.com/jp/

この東京地裁での審理は以下の過去記事の通り、大きな関心を呼んでいます。

PJA NEWS)タイ贈賄事件、日本で初の司法取引公判が始まり、タイで反響!
https://pattayaja.com/2018/12/26/1708/

PJA NEWS)日本企業のタイ贈賄事件、タイでさらに反響が拡大!
https://pattayaja.com/2018/12/27/1723/

2019年9月13日(金)、東京地裁は本事件で無罪を主張していた三菱日立パワーシステムズ取締役常務執行役員(事件当時)の内田聡被告に対し、懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。

この判決を考える為に、あらためて事件の経緯を振り返ってみましょう。
この事件の経緯について、日本の裁判で明らかにされた経緯内容はジャーナリストの江川紹子さんが詳しく記事に書かれていますので、引用してご紹介します。

日本版「司法取引」第1号事件で無罪主張の元会社役員に明日判決 (江川紹子)
https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20190912-00142411/

きっかけは、現地の役人からの要求

 検察・弁護側双方に争いのない事実を元に、経緯を説明する。

 この火力発電所は、タイ南部ナコーンシータンマラート県カノム郡のカノム川河口付近に建設され、工事のための資材は同国中部の港ではしけ(バージ)に積み、タグボートで曳航して、工事現場近くに設置された仮桟橋に接岸して陸揚げする海上輸送などの方法で行われることになっていた。

 ところが、同国運輸相港湾局の地元支局長Sは、本件仮桟橋は500トン以下の船舶接岸を条件として建設が許可されたものであり、2015年2月17日に接岸予定の3隻のはしけについては、いずれも500トンを超えている、と指摘。「金を払うまではしけを仮桟橋に接岸させない」として、海上警察や地元の自治体トップの分も含めて、2000万タイバーツ(7260万円相当)の現金を要求した。

金銭供与の準備を始めたが…

 MHPS社で建設資材の輸送の責任者だったN執行役員兼調達総括部長と、その部下のT調達総括部ロジスティクス部長らが対応を協議。「払うのはやむなし」などとして、担当者をタイに派遣して、現金を用意する準備作業を始めた。

 しかしN調達総括部長は、いったんその手続きをストップしたうえで、内田氏に相談することにした。内田氏は、本件を含めた各プラントの設計や建設、さらにプロジェクト全体の管理を行うエンジニアリング本部長を務めていた。

”宿題”が出されて終わった最初の会議

 同年2月10日午後4時、同社の本社会議室で内田、N、Tの3氏が集まった。内田氏は、この時初めて、金を要求されていることを知らされた。

 この時、内田氏はN氏らに「新たな接岸許可を取り直すことはできないか」「資材を陸上輸送する、もしくははしけを仮桟橋に接岸させずにクレーンなどで陸揚げするなど、他の輸送方法はないか」などを問い質した。これに、N氏らは「新たな許可を取り直すには数ヶ月かかる」「代替手段は見つからない」などと答えた。

 それでも、内田氏は金銭供与以外の別の手段を検討するように”宿題”を与えた。N氏らは「分かりました、検討します」と答え、30分ほどで会議は解散した。

 ところがその直後、N氏は部下のT氏に「止めていた金の準備を進めておくように」と指示。T氏は、部下のMロジスティクス課長に「内田常務に説明に上がったら、『良きに計らえ』とのことだった」と、事実と異なる説明をし、「金を渡すことで進めてくれ」と指示した。そして、関連会社が振り出した2392万バーツの小切手が、同月13日に現金化された(弁護人によれば、タイの銀行の営業時間は日本時間で午後5時30分まで)。

2度目の会議とその後の展開

 13日午後5時30分から、MHPS社本社会議室で、内田、N、Tの3氏による2度目の会議が行われた。それまで、内田氏は現地で賄賂の準備が進んでいることは知らされていない。

 この会議で、N氏は前回内田氏から出された”宿題”の回答として「代替手段はありません」と述べ、現地で準備が進んでいることや現金の運搬方法が問題になっていることなどを伝えた。

 これに対し内田氏は、大型クレーンを使って荷揚げする方法や、タイに支店を持ち、事情に詳しい関連会社やMHPS社内でタイに精通している知人のXに相談するなど、賄賂を渡す以外の方法を提案した。

 この会議の後、内田氏自身がX氏に電話をしたがつながらなかった。タイにいたX氏と連絡がついたのは同月16日朝。現地の状況の調査と対応を依頼した。

 しかし、同日夕、X氏から「明日から荷下ろしができるようになった」とメールがあった。内田氏は金が支払われたと理解し、次のように返信した。

「ありがとうございました。現地は私の理解を超えます」

このような経緯の本事件は日本版「司法取引」の初適用事件となり、MHPS社は捜査や裁判に協力する見返りに法人としての起訴を免れ、内田氏ら社員3人が罪に問われていました。裁判で内田被告は、上記経緯で贈賄の承諾があったかどうかと最大の争点として争っていました。

この事件について2019年9月13日、東京地裁(裁判官:吉崎佳弥(裁判長)、井下田英樹、山井翔平)は「現金供与を了承した」として承諾があったと判決を下し、懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。

内田氏が了承した「共謀の時期」は2015年2月13日の会議

この承諾の時期については、N氏とT氏は2015年2月10日と13日に、MHPS社本社内で内田被告とN氏、T氏とで行われた二回の会議の中で内田被告が「仕方ないな」と了承したため、賄賂の支払いが決まったと証言をしていました。

しかしながら、内田氏が了承をした共謀の成立時期が2月10日か13日のどちらの会議かは、そもそものN氏、T氏の証言でも食い違っており、共謀がいつ成立したのかが曖昧になっていましたが、裁判所はN氏の証言の信用性を認めて2015年2月13日の会議と認定しました。

この2015年2月13日の会議について、内田被告側は公判の中で、このあとも賄賂を払わずに代替手段を探る行為をしており、贈賄に「賛成も承諾もしていなかった」と主張していました。

これについて裁判所は判決で「望みは薄いとはいえ代替手段の検討の余地を残しつつも、本件現金の供与について了承したもの」「代替手段を探っていたことと本件現金の供与を了承したことは矛盾なく両立する」とし、「代替手段を見いだそうとしていたことが、当該了承がなかったことの証左となるわけではない」として、この主張を退けました。

上記の通りの内容で、地裁判決が言い渡されたものです。

タイ政府が進める汚職問題防止の取り組み

タイ政府は2011年にUNCAC(国連汚職防止条約)に加盟。

このUNCACの国際基準に合わせた基準で汚職問題の厳罰化と外国人贈賄罪を成立させるため、タイ政府のプラユット政権は2015年7月10日にタイの汚職防止法の改正法を施行し、汚職防止の取り組みを進めています。

事件で、内田氏が承諾をしたと認定されたのは2015年2月13日。
この時点では既にタイの汚職防止の取り組みも活発化している中でした。

その中でMHPS社は内田氏、さらに相談した”X氏”も含めて、タイの公務員へ贈賄を行う判断をして贈賄事件に至るとは、なんとも時代の変化を読む感覚も感じられない、愚かな経緯で贈賄行為を行ったものです。当然ながら、このような日本企業による贈賄行為は企業内はもちろん、他の日本企業などの企業からも当局への告発がされる事が多くありますから、露呈するリスクも相当に高いものです。

内田氏は裁判で主張している内容によると、少なくとも内田氏が積極的に贈賄を承諾した事はない、だから個人としての刑事責任はないという趣旨の主張をしていますが、裁判所はこのような主張は認めず、内田氏が承諾した事を認定し有罪判決を下しました。

日本企業が、海外のタイで贈賄を行えば、タイの汚職防止の取り組みを阻害する事になってしまいます。
そのような事を許さないとする意思が感じられる、そんな一面もある判決ではないでしょうか。

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