2019年10月31日 PJA NEWS)

タイ高速鉄道)EEC路線、ロイター報道「日本の銀行が融資」!実情は?

以下の、タイ高速鉄道のうちバンコクのドンムアン空港~スワンナプーム空港~ラヨーン空港の3空港を結ぶ”EEC路線”に続報です。

前回記事)PJA NEWS)タイ高速鉄道)EEC路線をCP連合が契約!2023年の開通を目指す (2019年10月25日)
https://pattayaja.com/2019/10/25/7210/

前回記事の通り、同路線についてはSRT(タイ国鉄)が入札で落札した、CPグループが率いる中国やタイのコンソーシアム(企業連合)が受注する契約を、最終期限ギリギリの2019年10月24日に署名して契約を締結しました。

これはSRT(タイ国鉄)が、CP率いる企業コンソーシアムに高速鉄道を発注するという契約です。
このニュースについて、ロイター通信が今月24日に次のように英文ニュースで報じていました。

Reuter)Thailand’s $7 billion airport rail project off the ground after months of dispute(2019年10月24日)
ロイター)タイ政府、70億ドルの空港をむすぶ高速鉄道を、数か月のやり取りの末にようやく契約
https://www.reuters.com/article/us-thailand-railways/thailands-7-billion-airport-rail-project-off-the-ground-after-months-of-dispute-idUSKBN1X31J5

(タイ高速鉄道の本路線について)民間セクターが1170億バーツを投資し、タイ政府は1190億バーツの投資を行う事を承認しました。

日本の一部の銀行は本路線について融資の一部を行う事に合意しており、この220kmの距離を結ぶ本高速鉄道路線は2023年に操業する予定です。

(ロイター通信の原文は以下、下線は追記)

The government approved 119 billion baht for the investment, while the private sector will invest 117 billion baht.

Some Japanese banks have also agreed to provide part of the financing for the link, which will span 220 kilometres and is scheduled to start operating in 2023.

このように、本路線の資金面について日本の銀行が融資に合意した事を、ロイター通信が英文ニュースで伝えています。

PJA NEWSではこれまでの記事でお伝えしてきた通り、日本側ではJBIC(日本国際協力銀行)がタイ政府と、融資に向けて協議を行ってきました。
今年の
3月7日にはJBIC(日本国際投資銀行)の前田総裁が、タイの首相官邸へプラユット首相の表敬訪問を実施、その際に本EEC路線への融資を協議しました。

その協議の内容を、タイの大手英字メディアのNationは以下のように伝えていました。

Nation)Japan bank reaffirms high-speed rail backing (2019年3月8日)
Nation)日本の金融機関、タイ高速鉄道への融資支援を再確認
http://www.nationmultimedia.com/detail/Economy/30365390

(日本語概要訳)

2019年3月7日、タイ政府側はプラユット首相、ソムキット副首相が参加、日本の国際協力銀行(JBIC)側は前田匡史総裁が参加して、タイの首相官邸で会合が実施されました。

(2019年3月7日 タイ首相官邸にて、日本の国際協力銀行(JBIC)の訪問と協議
写真:タイ首相官邸)

協議後、タイのソムキット副首相は「日本の国際協力銀行(JBIC)は、日中協力を背景にした、EECを含む地域への大規模な投資を支援するための資金援助をするという方針」だと語りました。

これにはタイ高速鉄道の所謂「EEC路線」を含みます。この路線はバンコクのドンムアン空港、スワンナプーム空港、ラヨーンのウタパオ空港の3つの空港を結ぶ路線で、融資の対象はこの路線の、総額2240億バーツの高速鉄道建設プロジェクトです。

協議はこの後も、引き続きタイ政府と日本の国際協力銀行(JBIC)とで実施される予定です。

プラユット首相は、タイ政府はこのタイ高速鉄道プロジェクトを支持しており、EECエリアがタイの製造業の拠点となる事を語った上で、このEECエリアでは日本が最大の投資国だと語りました。

プラユット首相は「以前から日本はタイと、タイ国内に教育機関を設立するプロジェクトでも協力しています。この教育機関や教育センターは今後EECエリアにも支部を作る事が期待されています。」と語りました。

※上記のBangkok Post記事の詳細を伝えるPJA NEWSの過去記事は、以下をご覧下さい。

PJA NEWS)タイ高速鉄道:日本の国際協力銀行、EEC路線を支援検討 (2019年3月10日)
https://pattayaja.com/2019/03/10/3224/

このことから、ロイターの報じる「日本の銀行」の融資というのは、日本の公的金融機関であるJBIC(日本国際協力銀行)の可能性が高いと考えられます。

タイメディアではこの後、融資規模も具体的に約2240億バーツ前後という報道なども多くなってきました。
タイの大手英字メディアであるBangkok Postの今年5月7日の記事で、以下のように伝えています。

Bangkok Post)China, Japan to join EEC smart city plan (2019年5月7日)
Bangkok Post)中国と日本、EECスマートシティー構想に参加
https://www.bangkokpost.com/business/news/1673272/china-japan-to-join-eec-smart-city-plan

優先されている5つのプロジェクトとは、タイ高速鉄道のEEC路線(2250憶バーツ)、ウタパオ空港都市計画(2900憶バーツ)、MRO(メンテナンス、修理、オーバーホール)センター開発の第二段階(106億バーツ)、レムチャバン港開発の第三段階(1140憶バーツ)、ラヨーンのMap Ta Phut港の第三段階開発計画(554憶バーツ)です。

日本のJBIC(日本国際協力銀行)の前田匡史総裁は、2019年3月7日にプラユット首相、ソムキット副首相との面談で、タイ高速鉄道の3空港を結ぶEEC路線について、ソフトローン(*)の準備が出来ている事を確認しています。

(*)この「ソフトローン」とは、主に先進国側が発展途上国向けに緩やかな条件で貸し付ける借款のことで、先進国に対する債務返済などで国際収支上の負担が大きくなり円滑な経済開発の促進が困難に陥いらないように行われるものです。

※上記のBangkok Post記事の詳細を伝えるPJA NEWSの過去記事は、以下をご覧下さい。

PJA NEWS)タイメディア「日中がスマートシティー構想に参加」日本側認識とズレ (2019年5月7日)
https://pattayaja.com/2019/05/07/4273/

(写真は高速鉄道イメージ)

 

このように伝えられている本路線について、現状はどうなっているのでしょうか。

JBIC「進捗は議論しているが、まだ具体的な決定はない」

PJA NEWSでは、日本の政策金融機関であるJBIC(日本国際協力銀行)の現状を取材し確認しています。
各方面に取材した所、JBICでは先週の2019年
10月24日のSRT(タイ国鉄)がCPグループ率いるコンソーシアムへの契約が締結されたことを発表された後も、これまでの通り本高速鉄道路線計画の進捗についての議論はしていますが、融資など具体的な決定は、まだ何ら決定されていない状況にあります。

そもそも、現状はまだSRT(タイ国鉄)が発注する契約をCPグループ率いるコンソーシアムとしただけであり、銀行としてはデューデリジェンスもこれからなわけですから、「融資に合意」といった決定ができる状況ではありません。
つまり、JBICが融資をするかどうかは「これから計画内容の詳細を把握して検討」というのが現状です。

では、ロイターの「日本の銀行が融資に合意」というのは、一体どこからの情報なんでしょうか?

ロイターの報道はどこから?ロイター通信の回答

PJA NEWSでは、冒頭に紹介したロイター通信の報道に書かれている「日本の銀行が融資に合意」というニュースについて、ロイター通信に取材しました。ロイター通信側はPJA NEWSの取材に応じ、詳細に状況と経緯を答えてくれました。

ロイター通信側の回答によると、この「日本の銀行が融資に合意」という情報はタイ政府の発表の際に語られたもので、それをロイターでタイ政府発表として確認し、ロイターの英文ニュースとして掲載したものでした。
つまりロイター通信でも、JBICや、もしくは他の日本のどこかの銀行から、融資に合意したと確認されているわけではありませんでした。

ロイター通信からすると、タイ政府に確認しているわけですから、報道機関としての事実確認としては十分ではあります。
ただ筆者の意見としては、その場合は記事には「タイ政府情報筋によると」等のように表記する方が、より正確で良いのではないかとも思います。
とはいうものの、筆者からの取材に対して、ここまで迅速かつ正確に回答し協議をしているロイター通信の方の見事な対応は、やはり流石です。PJA NEWSとしては、真摯で迅速な対応をしてくださっているロイター通信の方にも感謝の御礼を記載すると共に、ロイター通信側とも協議をし、事実関係を確認しながら、より正確なニュース配信に努めていきたいと思います。

そうなると、現状はタイ政府側は、JBIC(日本国際協力銀行)とのこれまでの協議から、実際にはまだ融資などの決定はされていないものの、日本の銀行が融資の「予定」と語っているというものと思われます。
このあたりの各国の報道には、タイ語、英語、もしくは日本語や中国語という言語の壁がありますから、ニュアンスが異なって伝わってしまったものかもしれません。

タイ高速鉄道EEC路線、日本から見たポイント

本高速鉄道路線の計画は日本人としての視点で見ると、日本企業も多くが関与するEECエリアの開発が進むのは嬉しいものの、開発はタイと中国の企業が中心となるコンソーシアムで行われるものであり、しかも中国政府が同路線を「一帯一路」の一環だと位置付けている路線です。この中国の主張を、日本政府が明確に否定している最中にあります。

PJAニュース過去記事)中国政府「タイでの日中協力事業は一帯一路の一環」日本政府は否定(2019年3月9日)
https://pattayaja.com/2019/03/09/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%94%BF%E5%BA

本路線については、タイや中国、日本に加えて、米国も注目をしています。
タイは日本と同様に米国の軍事同盟国であり、高速鉄道路線は軍事上の補給や軍事力の移動の路線ともなるものです。その高速鉄道路線が、中国の軍事輸送網でもある「一帯一路」の一環としてタイ東部に開発されれば、米国の安全保障に大きな脅威となるためです。しかも本EEC路線の沿線にはバンコクやラヨーンの3空港だけでなく、レムチャバンやラヨーンの巨大な港湾施設、セタヒップの軍港が含まれており、軍事上の重要性が非常に高いのです。

この現状を考えれば、日本の政策金融機関が巨額の融資で協力するためには、中国の一帯一路の一環として開発するという中国共産党政府の主張する「位置づけ」を、日中両国政府で議論するなどして見直す事が必要ではないでしょうか。

(2018年10月、安倍首相訪中時の講演
写真:<日本>首相官邸)

加えて、今後仮に日本の政策金融機関であるJBIC(日本国際協力銀行)が融資をしたとしても、建設を落札したのは中国やタイ企業が中心のCPグループのコンソーシアム、さらに路線では土地の収用が問題となっており、路線を建築するタイ東部などでは以下の過去記事の通り汚職問題の蔓延をタイ政府が解決のために尽力をしている最中にあります。

この取り組みと解決が進み、JBICが融資する巨額な日本からの資金が適切に使われ、かつ日本のJBICなどの権利が投資後も守られるようにしなければいけませんから、この進捗がどこまで進むか、冷静に見極める事が必要でしょう。

PJA NEWS)タイ)PACC、レイモンランド開発のUnixxでの贈収賄疑惑を捜査 (2019年9月13日)
https://pattayaja.com/2019/09/13/6358/

PJA NEWS)タイ)省庁の公職を贈賄で取引、タイ汚職防止機構ACTの事務局長が告発 (2019年9月23日)
https://pattayaja.com/2019/09/23/6541/

PJA NEWS)タイ)汚職問題の撲滅にプラユット首相が取り組み、国際イベントを開催 (2019年9月9日)
https://pattayaja.com/2019/09/09/6262/

PJA NEWS)タイ)DSI(特別捜査局)が17周年、汚職の撲滅を誓う (2019年10月4日)
https://pattayaja.com/2019/10/04/6821/

SRTからCPグループ率いるコンソーシアムに発注されたタイ高速鉄道のEEC路線、今後の具体的な展開に、さらに注目が集まります。

※本記事は、日本の政府機関やロイター通信はじめ、多くの関係者の皆様に取材の御協力をいただいています。
御協力いただいている皆様に、心より御礼を申し上げます。

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